DJ 選曲術

会社の同僚の結婚式の二次会で先日 DJ をしてきました。が、DJ なんて初めてだったのです。東京に居た際にhttp://kurofuneondo.net/というイベントのスタッフ兼ホストバンド(といってもライブ一回しかできずで迷惑をかけましたが・・・)をやったり、先週末もメトロに行ったり、と DJ のプレイをお客さんとして見る・聴くという経験はあるのですが、自分でそれをやることになるとは、、、とお願いを受けた際に思ったものです。

前置きが長くなりましたが、そんな初めてな私、足りない経験は知識でカバーということで、これまた別の同僚にこの本を借りました。実は前段で GROOVE | リットーミュージック という雑誌で組まれていた「DJ とは何なのか?」という特集記事を読んだのですが、どちらかというとコンセプト的なもので、若干混乱していました。それで本書を読んだ訳ですが、実践的なノウハウ、思考パターンを知るという意味でも、初心者にもわかり易くという気配りもあり有難い一冊でした。(と偉そうな事を言える程何かがわかった訳ではないですが)

内容としては、「選曲」という行為そのものに対する考えからはじまり、そこで考えるべきこと、具体的に留意すべき点などをベースに、プレイに対して幾つかの「軸」を設定し、そしていわゆるスターDJのプレイについてその「軸」をもって分析するという展開をしています。

おそらくプロのDJにとって脊髄反射的に行っているDJプレイに対する解剖の仕方は、私などの素人ではなくプロの人たちから見ると賛否両論あるとは思うのですが、DJプレイに対して、それを分析する「軸」となる座標をひいた、言い換えると理論的なアプローチをした、という事は私にとってはインパクトあるものでした。演奏自体にはクラシックの時代から音楽理論というものがありますし、そこまで大層な事を言わずとも、少なくとも教則本などを見たことがある人であれば、「スケール」であったり「リズムパターン」であったり、という基礎的な理論というものがある上で、如何に創造するか、というテーマがあるのですが、DJプレイにもそういう基礎になる考えを創り出した、ということに価値があると思うのです。

そして何よりも、一見 DJ というと「アリモノの曲をつなぐ」という見方をされがちなものに対して、既にある素材を組み合わせていくことにクリエイティビティがある、という事を名言している事にハッとさせられました。勿論楽曲を作ること自体に創造性はありますし、大変な作業であることは、アマチュアながらもバンドを続けている自分にとって十二分に経験していることです。ただ、さらにそれを素材として、与えられた時間の中で如何に観客を楽しませ、そして自分なりのメッセージを届けるのか、を意識しているところにまた別次元の創造性があるのだ、ということを再認識しました。私にとっての音楽行為というものは演奏をすることそのものでした。ですので、価値観としても創造性を見出すのはその楽曲自体であったり、演奏そのものであったりした訳です。ただそれは私にとっての音楽行為における価値観の捕らえ方であっただけで、DJ という行為を通じての音楽行為に対する創造性の捕らえ方はまた別の切り口で存在していた、ということです。

で、これは技術についても同じかな、と。ゼロイチで物を作るということには大変な創造性がありますし、そこには間違いなく大きな価値があるという考え方に異論を唱えるつもりはまったくありません。ただそこで生まれたものを組み合わせ、そして新たな価値を生み出すことにも、多分に創造性があるのだと思うのです。違いは結局どういったアプローチで「技術的行為」と向き合うのか。そこに優劣はないように思います。

自分の価値観、経験に捕らわれると、その範疇にないところに潜んでいる「創造性」を見落としてしまうかもしれない、そうならないようなアンテナをはって置きたいと思う次第です。